「先生、女の子って難しいですよね、先生だったらこんな時どうしますか」年長の娘さんを持つお母様から、数年前お声掛けいただきました。娘さんは、普段3人の友達とよく遊んでいるとのこと。良い時は良いのだけれど、揉めることもしょっちゅう。我が子が仲間外れにされることもあれば、我が子が仲間外れにしている時もあるようで。そんな話を娘さんから聞くたびに「子ども同士のことだから」と、親としては静観するよう努めているけれど、それでも、どうしても口を出したくなる時もある…。そうしてとうとう、娘さん達の揉める様子を目の当たりにしてしまった。目の前で娘さん達が険悪になっていく。あきらかに我が子が仲間外れにされている。口を挟むべきか否か。「…先生ならこんな時、どうしますか」
即座に答えられるほど正しい答えを持ち合わせていない、私の乏しい子育て力。そんな私が口にしたのは、教師としての答えと母親としての私の気持ちでした。
教師として私がその場に居合わせた場合、間違いなく口を挟みます。また、母親としてその場に居合わせた場合、我が子が意地悪をしている側であったら、口を挟みます。『仲間外れ』は良いことではないからです。年長にもなれば、段々と人を傷つける痛みも理解できてきますし、善悪の判断もほぼできます。それを分かっていても、ついついその時の感情で喧嘩したり意地悪をしたりしてしまう。…でもこれって、普通です。それこそが、子どもだと思います。もちろん、いろんな子がいます。その感情をグッとこらえて、悪口を言っちゃいけないんだと口をついて出そうになる悪態を飲み込んだり、意地悪をしそうになる自分を抑えたり。…理想です。
いわゆるこれが『善』です。教師としては、この『善』を教えなければいけませんし、この『善』に導かなければいけません。ですから、口を挟み、諭します。親としても同じで、我が子の行動が間違っていることは明らかなので、諭します。…いいえ、すみません嘘を書きました。諭すというよりも、実際に意地悪をしていた次女を前にした時の私は、相当な勢いで叱り飛ばしました…。
でも、母親として、我が子が意地悪をされている姿を目にしたら…。口は挟みません。放っておきます。そんなことも経験してほしい。経験するべきだ。私はそう思っています。こちらも、実際に意地悪をされて涙をこらえていた長女に、私は何の声もかけませんでした。…冷たい母親だと思われるでしょうか。
女の子って、小さな時から『女』で、大きくなっても社会に出てもいくつになっても、『女』なんです。すみません、これを読んでいただいているお父様には意味不明かもしれません笑。でも、きっと、お母様にはわかっていただけるのではないかと…。
幼児教育の世界で30年程を過ごしてきましたが、誤解を恐れずに一言で言えば、男の子はとても単純で、でも女の子はとても面倒な生き物です。男の子が単純に勝ち負けを楽しむサッカーをしている傍らで、女の子はお母さんごっこやおままごとなど、複雑な遊びを展開します。その会話に耳を傾ければ、実に笑える内容です。お母さんになりきり、子どもになりきり、その役をしっかり演じています。ご家庭でこんな会話があってるんだな~と微笑ましい半面、家庭で行われているであろう『幼稚園ごっこ』では、さぞかし教師の真似も上手であろうことがうかがわれ、若干焦ります笑。
女の子は、一筋縄ではいかないのです。だから、よく揉めます。年少さんだって、女の子が三人いれば揉めることが多々あります。それは、小学校になったからとなくなるものではありません。思春期に入ると陰湿になることだってあります(もちろん、この時期はもう女子に限ったことではないのですが…)。そして、大人になっても、それはあるのです。社会に出て、ご近所で、自分は揉めるつもりはないのに巻き込まれてしまった…そんなことだってあるのです。女の子は、男の子みたいに「ごめん!」の一言で済むような、シンプルな思考回路ではなく、ついつい言葉の裏を考えてしまうような、物事を複雑化してしまうようなことが得意な生き物なので…。
さて、話を戻します。私たち教師は、親は、子どもに正しいことを教えなければいけません。『善』を教えなければいけません。でも、教えられたからと言って、子どもが一度でそれを理解し行動できるようになるものではありません。また、我が子が『善』の行動ができるようになったからと言って、周りの子どもがその行動ができるとも限りません。誰かに意地悪をされるという理不尽な環境に立った時に、ただ泣いて立ちすくむのか。帰宅後、家庭で訴えて、家庭から園や学校に連絡をしてもらって解決を委ねるのか。頻繁にあるであろう女の子の揉めごとに、都度都度介入するのか。…自分で解決する術を身につけさせることが得策ですよね。
お母様方なら、その面倒な思考回路や人間関係が容易に想像できるはずです笑。もう何十年も『オンナ』やってますからね。思うようにいかない人間関係。小さな傷で済む幼児期の今だからこそ、たくさん経験させましょう。そうして、『女子』の中で生きていく術を身につけさせましょう。…あ、でもこれ、よく考えたら女の子に限ったことじゃない…ですね!
関 恵子