くすの木幼稚園 副園長 関 恵子
今月は、10年以上前の園だよりから…。
白水学園の『つぶやきノート』。これは、担任の先生が、自分のクラスの子どもの成長を毎月少しずつ書き留めたもの…。幼稚園での成長、優しい一言、小さな変化、そして時には友達とのぶつかり等を記録しています。…その、担任の先生には及びませんが、私も時々遭遇する子どもとの関わりのいくつかを書き留めてみました…!
10月18日
「失礼します。○○組の○○です。スモック返しに来ました。ありがとうございました」
火曜日の朝、年中の女の子が、前日に借りていた園のスモックを職員室まで返しに来ました。ほんの少しはにかみながら、でもはっきりと入口で挨拶をするその姿を見て、一人こっそりと感慨にふけっていたら、「言えるようになったんですね~」と、いつの間にか隣にいた吉鹿先生がポツリ。「そう!私も今思いよったと!!」と、思わず返事に力が入り…。
その女の子は、実は二年間、人前で話をすることができず随分心配された子でした。困ったことがあっても言えない。嫌なことがあっても話せない。お当番になっても何も言えない…。職員室に入るための「失礼します」の一言が言えず、何分も何分も入口で立っていたこともあります。(ちなみに、これは私の三女も同様で、数十分入口でボーッと立っていたことがありました。…私はと言えば、恥ずかしさと申し訳なさで、職員室から逃げました…)その女の子が、ほとんど躊躇することなくはっきりと要件を言うのです。…感動。この一言に尽きます。
先生との毎日のやり取りや、時には厳しい叱咤激励もあったかもしれません。もしかしたら、「幼稚園行きたくない」なんて思った事もあったかもしれません。お母さんに励まされたこともあったでしょう。でも今は、はにかみながらも笑顔。この女の子にとっての、大きな大きな壁を乗り越えたんだろうなぁ、と思いました。きっと、これから先、どんな時も自分の想いがちゃんと言える…。そう感じた、とてもとても嬉しい朝でした。
10月19日
「ほら、ちゃんと関先生にご挨拶しなさい」降園時、門のあたりでお母さんに挨拶を促される年少の男の子。まだ遊びたかったらしく、少々ふてくされ気味(笑)の男の子は、口をキュッと結んだまま手にこぶしを握り、じっと動かず立っています。「みんな帰る時間だから」「約束してたでしょう」お母さんが、一生懸命納得させようと何度声をかけても、頑なな表情はなかなか変わらず…。そんな姿にお母さんも少し困ってきたような…。そんな男の子とお母さんの様子を見ていると、ふと数年前の私の次女と私に姿がかぶりました。…私も、よくこうやって次女に言い聞かせていたなぁ…と。
私の次女は頑固で、嫌だと言ったら嫌。しないと言ったらしない。したいと言ったらしたい。どんなになだめすかしても、どんなに叱りつけても、気持ちを変えることはほとんどできず、そんな状況に私はイライラするばかり…。結局は、叱り飛ばして(!)、泣かして(?)、無理やり言うことを聞かせて(…)、オシマイ。こんな状況になる度に、次女のワガママと自分の不甲斐なさに溜息をついたものでした。
目の前の男の子を通して、ほんの少しそんなことを思い出しながら、「さて、この子はどうするのかな」と、ちょっとドキドキしていたら…。「…さようなら…」とポツリ。「もっとちゃんと言いなさい。先生の目を見て」と、更にお母さん。「…さようなら!」今度は私の顔を見てしっかりと。…スゴイ!「さようなら。また明日いっぱい遊ぼうね」そう返しながら、私の心の中は子どもに拍手と、お母さんへの尊敬の念でいっぱいでした。長丁場になるかと思いきや、『遊びたい』の気持ちを我慢しながらの精一杯の一言。なかなか言えるものではなく、ましてや、簡単に言わせることができるものでもないと思っていましたが、日頃の躾がしっかりと出来ていれば…言えるんですね。スゴイ。お母さん、スゴイ! やっぱり、私のようなその場しのぎの躾では、ダメなんだなぁ…。またまた、我が子育てをたくさんたくさん反省した日でした。
今は、2022年の2月。10年以上も前のお話ですが、今もよく見られる子どもの姿で、日付がなければ何の疑いもなくつい先日の出来事だと思うところです。ただ、まあ、私と娘達の年齢は間違いなく加算されていますので、過去の出来事に嘘偽りはないのですが…。
子どもにできないことなんて、きっとありません。でも、『放っておいてもできる』『そのうちできる』なんて、都合の良いこともありません。『こうなってほしい』『できるようになってほしい』その想いのもと、どれだけ我が子と向き合うことができるか…。私のことで言えば、長女と三女に比べて、次女は親の言うことを本当に聞きません。それは、口で言ってわかる他二人とは違い、口で言ってもわからない次女を半分放置していたツケだと思います。言いきかせることを途中で諦め「そのうち分かるだろう」と都合よく自分に言い聞かせていました。だから…。ハタチを目前にし、あたりまえですが生活全般のことはできても、肝心な『親の言うことを聞く』『聞く耳を持つ』と言うことはできません。…させきれない、と言うのが正確なところです。
その時その時に蓋をしたこと。メンドクサイと逃げたこと。今は、その全てを反省しています。次女と関わってきた20年程の中のほんの数ヶ月。ほんの数日。ほんの数十分。何故、たったあれだけの時間を惜しんだのか。向き合わなかったのか。諦めたのか。…今、これを読んでいる保護者の方が、どうか、私と同じ想いをすることがありませんよう…。
今、反省まみれの私が言います。決して我が子に負けてはいけませんよ! そして、自分にも負けないでください。「こうなってほしい」その親の想いを貫き通してくださいね…!